夢見桜の木の下で


の桜の木はどうして植えられたんだろうね。こんな丘に一本だけ。
空が埋まるほど毎年花は咲かなくて、見向きもされない悲しい木。だけど
僕は好きだった。いや、今でも相変わらず。とても懐かしい匂いがするんだ。
その木で君を見つけたのは2年前だろうか。僕は毎年のように一人で散歩ついでに
桜を見に行った。それは僕だけのお決まりの行事でその年も変わらないはずだった。
そう、君を初めて見つけるまでは・・・
僕は一瞬、西洋で言う天使を見つけたような気がした。まるで見てはいけないものを
見てしまったような、なんとなく心に罪悪感を感じてしまった。
見慣れない西洋の服。桃色、いやさくら色といった方が君に相応しい感じがする。
その服は黒髪の君にあまりに似合い過ぎていて、そしてこの貧弱な桜の花に
あまりに溶け込み過ぎていて、まるで完成された映画を見ているようだった。
はしゃぎながら木の周りを駆け回り、かと思うと突然悲しいのか嬉しいのか
見当もつかない表情で花を見つめ続け、いつのまにかその側から消え去っていた。
もしかしたら君はこの桜の木の精なのかもしれない。僕は見てはいけないものを
偶然にも見てしまったのかもしれない。全てが夢のような少し切ない春の一瞬だった。

- いつのまにか一年が過ぎ去り、再び桜の季節が巡ってきていた。
仕事に駆け回る僕。それでも君のことが頭から離れることはなかった。
満開の時期、毎日のように桜の木に会いに行っていた。何時間も木の下に
座り込み、またあの天使が現れないかと青空を見上げながら願っていた。
去年とまったく同じ日、君は再び現れてくれた。
去年より少しだけあの黒髪が伸びたような感じがした
僕の夢や幻想ではなかったらしい。きっとこの周辺の別荘に遊びに来ているのだ。
見たことも無い靴や髪飾りや、そういうものを身に付けているのだから
きっと財閥の一人娘に違いないだろう。僕とはまったく身分が違う君。
それでも君を見つめる一瞬だけは、そんなもの全てが吹き飛んでしまうような
僕にとっては一番の幸福だった。
たとえ僕とはまったく違う人だと言うことを知っていたとしても。
なにも望んでいるわけではない。なにも・・・
もしも来年もこの場所に来たなら勇気を出して話し掛けてみよう。きっと・・・


そして・・・・三年目の春はやってこなかった。今日まで僕は毎日ここへ来て
君を待っていた。桜が咲いた最初の日から花びらの最後の一枚が
落ちてしまう今日のこの日まで。なにか事情があって来れなくなったのだろうか。
それとも、この木に興味が尽きてしまったのだろうか。
どうでもいい。後悔ばかりが僕の胸を刺す。何故あの時に勇気を出して
話し掛けておかなかったのだろう。何故今年まで伸ばしてしまったのか。
去年のうちにすべて君に打ち明けていたなら、君の記憶の片隅にでも、
僕の顔が、声が残ったかもしれないのに。この桜と共になにかが変わったかも
しれないのに。
出来ることなら今すぐ君に教えたい。今年はもう桜が散ってしまった、と。
来年も僕はここで待っているから・・・と。
けれど君は二度とこの場所へは来ないだろう。何故か僕にはそれが分かった。
僕は今年で二十歳になる。もうすぐ許婚を嫁にもらうだろう。
僕のたった一度きりの初恋の夢は終わったのだ。もしかしたら君は本当に
僕に幸せを与える為に現れた天使だったのかもしれない。
本当の恋を知らないまま結婚してしまう僕を哀れんで・・・
もう二度とここへは来ない。やっぱり来ない。大人になるから。
けれど、もし子供の最後の一瞬がここにあるのなら僕は君に伝える。
―――僕は君が心から好きだった。天使のように舞う君が何よりいとおしい
幸せだった。君は大人にならないで・・・永遠に。僕がいつか忘れるこの
気持ちをこの場所に残していて欲しい――― 。

 


★ あとがきと感想 ★
友達とテーマを決めて書いた1作目です。久しぶりに
書いたのですが、こんなのも書けるんだな、と自分に新しい
発見がありました。前から桜をテーマにしてなにか書きたい
と思っていたのでとうとう書けてヨカッタです(^^)
やっぱり一年前とは作風もかわりますねえ・・・

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