「 遠 い 日 の 鎮 魂 曲」

 

ギリシア建築――ドーリア式の神殿の廃虚。

僕は白い柱の一本一本を掻い潜って荘厳な像の前に立ち、ゆっくりと見上げてみた。初夏の風がオリーブの香りと共に柱の間を通り抜ける。神殿のある丘からは蒼い空と、遥か下方に街並がうかがえた。見晴らしがいい。この地に訪れるのは初めてだったが、不思議と違和感がない。

――何故だろう?

僕はゆっくりと彫刻の前まで来て、深呼吸をして目を閉じてみた。


 千年の歴史が鮮やかに蘇ってきた。

民は不治の病に冒されていた。王も農奴も獣までもがその病に冒されていたのだ。

人々は最後の最後まで神の存在を信じた。ぼろぼろになった身体で神殿に集まってきた。しかし、祈りを捧げる前に息絶えていく者も少なくはなかった。そこにはそういう者の亡骸や、苦しそうな呻き声がゴロゴロ転がっていた。夕靄がかかり、生命の気配が消えかかったとき、一人の兵士が靄の向こうからふらふらとした足取りで現われた。その兵士は像の前まで来て、神に祈りを捧げる。

「今度転生するときは平和な世の中に生まれてこられますように……。」

兵士は間もなく息を引き取った。

その後、数百年はこの地に生命の息吹は生まれてこなかった……。


僕の目からは涙が零れた。ただ只管悲しかった。
遠い日の記憶……。百年前のこの地には、死の風が吹いていたのだ……。
僕は、覚った。……自分が、あの青年の生まれ変わりなのだと。
そして神殿から出て、真っ青な虚空を仰いだ。

――僕は確かにこの目で見た。 

       ……そう、百年前のこの地には、死の風が吹いていたのだ。


夜は更ける。沢山の死者の魂を背負いながら。

明日も明後日も同じ風が吹くだろう。時が遡ったりしない限り。


*管理人から一言*

雨月様、ありがとうございました。。。そしてアップが遅れて
申し訳ありませんでした・・・・・・。文章のうまさに感動しております。
これからもよろしくおねがいします。タイトル画像、結局使わずになってしまい
ました。重ね重ねスイマセン・・・・




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