「 甘 イ モ ノ 」

 

「――私だってさぁ、夕立より突然で、砂糖より甘くて、絞りたてのレモンよりすっぱくて切ない恋愛がしてみたいよ!」
仕事先で偶然会った私達は、最近開店したばかりのお店で軽めの昼食を摂っているトコロ。久々にあった友人は、相変わらず同じような事を言っていた。
「あ、もちろん、その先はハッピーエンド。源氏物語の昔から決まってるけどね」
スーツ姿の彼女はオレンジジュースを一気飲みして、不敵に言い放つ。
「あんたねぇ、昼間っからジュースで酔っ払わないでよ?」
「まっさか。でも、いいよね〜。ハルナは彼氏いるんでしょ?昔っからもてたもんね」

ニコっと笑った彼女は美人で、可愛くて、並のアイドルより人目をひく。頭も良いし、性格も良い。
体の線が細くて、身長は高くもなく、低くもない。声は別段特殊というわけではないけど、服の趣味だって料理だってウマイ。
媚びたところもないし、その上面食いではないから、絶対お買い得なのに(……と、彼女の前で声に出して言える表現ではないけど)――ドイツもコイツも、
彼女には寄ってもこないのだ。

「そっちはどうでもいいけど、あんたはいい加減、自分から向かっていきなさいよ。売れ残ったらもったいないよ」

理由はカンタン。美人過ぎて、誰もが妙な勘繰りをするのだ。
『このヒトにはもう誰かがいる。こんなに可愛くて彼氏がいないなんて有り得ない。俺が今更アタックする余地なんか、1ミクロンも残ってないに決まってる!!』
(そして、勝手に敗走)
これは実際聞いた話。『告白したくても美人過ぎて近寄れない』っていうのも聞いた。趣味じゃないとか、別にいるとかなら言うことはないけれど、
コレはあまりにもバカバカしくて、言葉にもならなかった。人生、時は1度しかないのに、もったいないにも程がある。『好意を持ったら、近づくぐらいしなさいよ!』
と言ってやりたい、けど、言わない。
彼女が――カヨが、待っているだけじゃなければ、自分がもてると気づいていれば、事態はもう少しぐらいはマシ、なのだし。

「う〜ん……売れ残るのは嫌だけど、自分からって言うのもなんだかなぁ、怖いし、なんか、……ホントにそういう、……付き合うとか、
そういう好きなのかって、イマイチわかんないのよね。判断がつかないっていうか」
カヨはグラスに残った氷をストローでつつきながら言う。
「今ごろそれはないでしょう?そんな事言ったら……あんた、初恋もまだってこと?」
「う〜…ん、……うん」
「うわ〜……」
こりゃぁ、だめだと思った。
幼馴染というほど昔からではないと思うけれど、カヨとはけっこう深い友情を築いてきたと思う。
けれど、まさか初恋もまだだとは思わなかった。
「あ、でもね、かっこいいとか、そういうみわけはつくよ」
「当然でしょっ!同じ人間の、日本人の醜美がわかんなくてどうすんのよ」
「でもね、こう、女の私から近づくっていうのもどうかと思うの。色気倒しは反則だよ」
「……それは今更あんたが言うことじゃないわよ。って、そこが問題なんじゃないわ。
色気を使わなきゃいいでしょ。食事に誘うとか。あるでしょ、いろいろ」
どうして私がそんなことを言わなければならないのよ。
「でも、その前にその、イイヒトがいないわ。それに、私の希望は『突然』がメインだし」
……もう知らない。
「……勝手に言ってなさい。ホントに売れ残っても知らないんだから」
 すると、彼女は吹き出した。
ホントに、カヨは可愛いのだ。本人の事はさておき、どうして誰も近づかないのか…。

私達はそれからもう少し、時計の針を気にしながらギリギリまで話して、そして別れた。

そして、数ヶ月後。(思えば何故数ヶ月連絡をとらなかったのか……謎だわ)

彼女からメールが届いた。
曰く、「突然、恋に落ちました」と。
但し、相手は会社の同僚。
彼女の望みどおり、甘くて切ない思いを味わっているのかはわからない。
けれど、始めに声をかけたのは、相手だったらしい。
とにかく、私としては相手の度胸に乾杯。
ハッピーエンドにはなるのかと聞いたところ、
「終わっちゃ困る」
との返事だった。


* 感 想 *
時雨さんの普通の(?)、現実味ある小説を読んだのは初めてに違いない。
でも私は結構好きなお話です。ところどころ「ククッ」と含み笑いをしてしまう
ようなツボだったみたいで・・・。OLさんって、意外に面白いエピソード持ってる
人多い気がするのは私だけ!?だからこそ書きたくなるんですねきっと。

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