「 目 覚 め の 時 」

「こんにちはー!類くーん!?」そういいながら元気そうな
中学生くらいの少女が大きな洋館のドアを開けた。
「なんだ来たのか。今日はいいモンがあるぞ。あとで見せてやるから
ひとまず宿題でも終わらせろ。」そう言ったのは白衣を着て、眼鏡をかけた20歳代
くらいの男だった。洋館の中で白衣を着るというちょっと奇妙な
ことをしている男だがそれがなぜかこの館に溶け込んでいた。
やはりこの男がこの大きな洋館に合った上品さを持つオーラを兼ね備えている
からだろう。実はこの二人、家族ではない。洋館は男の自宅であり
少女はそこへ訪ねてきたのだ。それは習慣になりつつある。
少女は麻倉幸美といい、男は西園寺 類というのだが、この二人の関係は世界中
探しても有り得ないほどの奇妙なものである。
二人の出会いは約5年ほど前のことだった ― 。

その時10歳の麻倉幸美は、原因不明の頭痛と高熱に悩まされていた。
もう4日ほどになるだろうか。両親は最初は軽い風邪だろうと軽く考えていたのだが
3日間40℃の熱が続いているのに驚き、やっと病院に連れていってくれた。
しかし、いかにもうさんくさそうな医者が言った「風邪でしょう。」の一言で再び安心して
しまったようだ。もらった薬を飲んだのだが、次の日になっても熱が下がる気配がない。
熱で朦朧とするアタマ、痛む節々、死ぬかもしれないと思った5日目の朝、何故か
突然頭痛は消え、熱も下がってしまった。その足で、朝食を作っている」
母のところへ走っていった。学校へ行く、と伝えるために。
母の佐智子は、「幸美、もう平気なの?よかったー」
そう言って、幸美の肩に触れた。家族の誰もが幸美が元どおりに
元気になったと喜んだ。しかし幸美本人だけは元どおりでないことを
感じ取った。佐智子が幸美の肩に触れたとたん、幸美の中に
母の声が流れ込んできた。「今日から学校に欠席の連絡をしなくて
済むわー。よかった」と。母の口からは聞こえてこなかった。これは母の心の声なのだ。
しかし幸美は半信半疑だった。
昨日まで寝込んでいたせいだ、空耳だった。そうに違いない。私は普通の女の子なんだから。
しかしその予想はもろくも崩れ去った。
学校で幸美が誰かに触れるたび、誰かに触れられるたび、その人の心の声が頭の中に
流れ込んでくるのだ。聞くまいと思ってもそれは幸美の意志とは関係なく作用してしまう。
一時的なものだろうと誰にも言わなかったのだが治まる気配は全然ない。
幸美は次第に、人との接触を避けるようになってきていた。変な力を持ってしまった自分が
嫌でたまらない。誰かになんとかしてほしい。この変な力を消して!
そう思った時、心にある一人の人物が浮かんできた。近所の大きな洋館に住む一人の男。
滅多に外に出てこない為ほとんど人付き合いがない。顔もほとんど思い出せない。
もちろん幸美も話したこともなかった。しかしその時に限って
幸美は彼ならなんとかしてくれるに違いない、という確信に近いものがあった。


幸美は大きな門の前で深呼吸をした。この辺は高級住宅街で並んでいる家全てが見上げる
ほど大きく、置いてある車も外車ばかりである。
しかしその中でもひときわ大きく、まるでそこだけが日本ではないような洋館の門の前に
幸美はひとりたたずんでいた。とうとうやってきてしまった。
門は自分で開けていいらしい。誰もいないので確かめられないのだが・・・。
力いっぱい押してやっと門を開け、季節の花や草木が並んでいる英国風の
庭を通って、扉の前までやってきた。インターホンを鳴らすのにちょっと
勇気が要ったがしばらくして、とうとう重厚そうな扉が開いた。
そこに立っていたのは180cmくらいの長身で、ちょっと痩せ型の
20歳代くらいの青年だった。眼鏡をかけており、奥の目はやさしそうに
こちらを見ていた。驚くほど美形で日本人以外の血も入っているようだ。
それはともかく、おかしなことに白衣を着ている。一見すると医者のようにも
見える。幸美は一目見た瞬時にこんな沢山のことを考えていた。
青年は一瞬幸美を見てびっくりしたようだったが、すぐ家に入るように言った。
洋館の中は幸美が想像していた以上に広く、高そうな絵画や彫刻が置かれていた。
幸美が座ったソファーも明らかに普通の家にはないような立派なものだった。
青年は紅茶を持ってちょっと緊張して縮こまっている幸美の目の前に座った。
「麻倉幸美、10歳。何か誰にも言えないような悩みを抱えてここにやってきた。
どうして僕のところにきたのかはわからないけど、だろ?」
青年はそう言ってにやっと笑った。どうやら人を驚かすのが趣味らしい。
幸美はこの人は変人だと直感したが嫌いなタイプではないと感じた。いつもなら
知らない人の前では黙りこくってしまうのが常なのだが、スラスラと言葉が出てきて
幸美は自分でも驚いていた。自分に起こった出来事をすべて、しかも順序良く話していった。
「自分でももう気付いてると思うけど、それはいわゆる世間一般で言う
超能力っていうものだろうね。第六感ともいう。事実、幸美はそれが起きる前日まで
高熱でうなされていたでしょ?それは力が開花する時の反作用みたいなものだよ。
でも幸美はそれが嫌でしょうがない。聞きたくないものまで聞こえてくるんだからね。
だから明日かから一ヶ月間、毎日ここへ通ってくるんだ。いいね?力を消すんじゃない、
コントロールする方法を覚えるんだ。幸美はこんな力いらないと思っているかもしれない。
だけど力をコントロールできるようになればそれは人の役にたつことができる。
幸美に力が現れたのはきっとそのせいだ。使命なんだよ。って言う風に考えたら結構嬉しい
んじゃないかなあ、人にはない力があるってさあ。」
青年は一気にそう話すと、じっと幸美を目を見つめていた。幸美は自分が
いつのまにか呼び捨てにされていることにも気付かず、青年の話に耳を傾けていた。
今迄そういう風に考えたことがなかったせいだった。正直感心していた。
「本当にコントロールできるようになるんですか?」

「もちろん。幸美にその気があれば、ね。」そう言ってまたにやっと笑った、
まるで幸美の答えがわかっているように。
「わかりました。明日から来ます。あの、ところで・・・名前なんていうんですか?」
「そうか・・そういえば忘れていた。ここ数ヶ月も人に会ってなかったからなあ。
自分の名前口にする理由もないからな一体前回人に会ったのはいつなんだ?
あ、僕の名前は西園寺 類。たぐいって言う字だよ。名字も珍しくない?」
ちょっと青年はぶつぶつ言いながら腕組みをしていた。
「わかりました。西園寺さん。」
「るいくん。」
「えっ?」
「西園寺さんなんて堅苦しく呼ばなくていいよ。るいくんって呼んで。僕と君は
友達みたいな関係の方がいいな。まあ小学生と友達っていうのも怪しげでいいカンジ
だろう。うん。」類は一人で納得して肯いていた。幸美のことは蚊帳の外のように。
幸美は一瞬声がでなかったが言われた通り、半分しょうがなさそうに、
「じゃあ・・・・る、類くん。」とおそるおそる呼んでみた。
「そおそお。いいカンジ。」といいながら拍手をする類を見ているとこの人はふざけている
のか、はたまた本気で言っているのだろうか、と考えこんでしまう。
まさか彼は全て人を欺いて生きてるんじゃないか、という考えは決して安易なもの
ではないように思われる。
その日はそのまま家に帰り、次の日から幸美は本当に 毎日西園寺家に通うようになった。
もちろん親に内緒で。親になんか言ったら、絶対反対されるにきまっているのだ。
なにがなんでもとにかく、力をコントロールできるようになるために。
類はとにかくコントロールするには精神が大事だと何度も強調した。
「自分の心が弱くては絶対に力をコントロールなんかできない。自分が望んだ時だけその声が
入ってくるように。その他の時は心をシャットアウトの状態に保つんだ。力をコントロールするって
いうことは心をコントロールするってことなんだよ。それが基本基本。」
口では言い表せないような訓練を毎日毎日繰り返し、一ヶ月後には幸美は完全に力を
コントロールできるようになっていた。自分が望んだ時以外は決して心の声は入ってこない。
訓練は修了した。しかし類は、最後にもっとも重要なことを教えてくれた。
「決して自分の利益の為だけに使ってはいけない。理由もなく
人の心を覗くなんてことは罪の重いことだよ。そんなことをしたらきっと力は消えていく。
僕はそうやって力を失った人を何人も知っているからね。」
珍しく真顔で、まるで大人に向かって話し掛けるように幸美を諭した。
「ああ、あたしはきっと類くんのそういうところが好きなのかな。類くんはあたしを対等な
大人として見てくれてる。そこが周りの大人と違うところなんだろうな・・・。」
その時幸美はそんな風に類のことを考えていたのだ。

毎日西園寺家に通っていくにつれて幸美は類のことを色々知るようになった。
実は類も人とは違うある力を持っていること。それについてはあまり詳しくは教えてくれなかった。
それから、この大きな洋館は実は親の家なのだという。父親は世界的に有名な科学者で
いつも世界を飛びまわっている。母親はドイツ人だが父親にいつも同行しているためほとんど
日本にいることはない。また類には弟がいるが彼はバイオリニストの卵で、ドイツに住んでいる。
類自身は父親の血を引いてか物理学の研究などをしている。
また個人的趣味の範囲で発明をすることが趣味らしい。とはいってもそのへんにいる素人
とはわけが違う。世間に発表すればかなり噂になるだろうというような代物だ。
幸美は約束の一ヶ月間が過ぎても週に2、3度は類の家に行っていた。学校に
いるより何倍も楽しいことが類の家には沢山ある。人のオーラを見たり
人間並みに頭の良いロボットを作ってみたり・・・毎日が冒険のようなのだ。

「ねえ、今回類くんが発明したものって一体何?それってけっこうすごい?
5年たった今でも幸美はしょっちゅうこの家に来ている。
「ん?今回はな・・・・かなりすごいぞ・・・・名付けて『夢覗き見装置』だ!」
類のネーミングは毎回おかしなものが多く、というかなんのひねりもなく、幸美も閉口していた。
しかしそれには触れず、機械を見た。それを言うと子供のようにふくれるのだ。
なんだか大きな機械に色々な管が付いている。どうやら人に頼まれたらしい。
「毎日朝起きると汗をびっしょりかいている。だけど夢を覚えていないのでどんな夢を見ているのか
しりたい。」という女性からの依頼だった。ある事情があって夢を思い出さなければならないという。
「もうすぐその人が来るから一緒に見るか。」という嬉しい類の誘いで幸美はその人
の夢を一緒に見たのだが事情は簡単だった。女性は学校の夢ばかり見ているのだ。
よほど学校が嫌いだったのか、学校の嬉しくない場面ばかりが繰り返されるのだ。
結果を女性に話すと、「やっぱり・・・・。」と深刻そうな顔をして礼を言って出ていった。
「なんか事情があるんだろうな」類が呟くように言った。
この時実は、幸美はある欲望にかられていた。「類の夢を覗き見したい!」
なんだかんだ言って類は自分の心の内までは語ってくれない。
聞いてみてもいつもはぐらかされてしまうのだ。幸美はもっと類の内側を知りたかった。
この日は偶然、幸美の両親が外出していない。決行は今夜。
夜中、3時過ぎ、幸美はこっそりと西園寺家に忍び込んだ。たしか、類の部屋は2階だった。
見るとキングサイズベッドに一人で豪華に寝ているではないか。羨ましい。
手際よく類の頭に、管の先端部分をはりつけていく。幸美は今心から楽しくて
しょうがなかったのである。少しは類のことが理解できるかもしれない、と。
そして、とうとう電源をぽちっと入れた・・・・・・・

――― 「ん?どうしたんだ?幸美・・・なんか元気ないなあ」
「そう?別に・・・・」
幸美は類の顔をまともに見れなかった。あの夢を覗いてから・・・
類の夢はこんなものだった。
目の前に宇宙が広がる。この夢では類は傍観者らしい。
そこを一羽のひよこが横切っていく。ピヨピヨと鳴きながら・・・
するとそこへ、突然ドラえもんが現われ、ひよこを丸呑みにしてしまった。
そしてドラえもんは「ドラ焼きが食べたいよう。」と一言。その瞬間、巨大
ドラ焼きUFOがドラえもんが座っていた星に衝突し、星だと思っていた
卵が割れてヒヨコがぴよぴよあるきだすのである。そのあとの話は
省略させて頂くが、ちょこっと言うとその後富士山とすき焼きが目の前に現れ
ドラ○ちゃんと星飛○馬とキン肉○ンとサ○ーちゃんとナゾの仙人と木村○哉が登場する。
幸美が発見できたのはそれだけでその他100人くらいのキャラクターが
同時に動いているのである。それがえんえん続くので、幸美は頭痛に襲われ
電源を切った。あの後も見ていたらこっちの精神の方がやられてしまう
に違いない。幸美は夢を覗いたことを後悔した。黙って盗み見したからでは
ない。ますます類の頭の中がわからなくなったからである。夢なんかで
類のことを知れるわけがない。幸美はつくづく思ったのであった。つづく。


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