「 友 達 だ か ら 」

 

一人になることが好きな人もいる。もちろんそうでない人が多数いることも
事実だ。
この小説の主人公の水沢唯里(みずさわゆり)は後者の方で
小さい時から一人きりの留守番が大嫌いであった。

もちろん高校生になった今でも暗所恐怖症で、一人が嫌いな
ところは変わっていなかった。

さて、雨のこの日は 偶然日曜日で、偶然雨が降っており、
偶然父も母も妹の千果も外出する予定で、偶然唯里はなんの
予定も無かった。
その結果は当然予想,できるもので唯里は一人きりになってしまった。
しかも雨降りとなればこの日は唯里の大嫌いな日に違いなかった。

仕方なく一人きりで部屋で漫画を読むことにした。しかしどこか
落ち着かない。
この家は静かな住宅街の一画にありあまり車も通らない為、
家の中になにか音がすることが無ければ
一切音がしないと言うことも有り得るのだ。今まさにその状態
の中に唯里はいた。
唯里はもちろん現代っ子で音がしないということに慣れていない。
と、突然その静寂を破るように電話が鳴り出した。唯里は飛び上がる
ようにその電話に出た。
相手は親友の永瀬 葉摘(ながせ はつみ)である。なにか話が
あるということで
唯里は近くの喫茶店に行くことになった。運よく一人きりから
脱出することが出来た。

「実は今度留学することになったの。」
思いもかけない葉摘の言葉に、ケーキに夢中になっていた唯里は
顔を上げた。
「い、今なんて言ったの・・・・・・?」
聞こえていたはずのセリフだったがあまりに信じられなかった唯里はもう一度繰り返すよう頼んだ。
「だから留学だってば!」
少々いらいらしながらも葉摘はこたえた。
「り、留学??ど、何処に?何年間?」
「イギリスに、う〜ん、期間は決まってないんだけどねえ・・・ほんとに
いつ帰るかはわかんないんだ。」
さきほどから唯里は信じられないと言う顔をしているが、それほど
急な話ではない。
葉摘は昔から通訳になるのが夢で、何度かホームステイも経験していたし、学校での成績もよかった。
まあ留学は当然と言ってもおかしくなかった。
「やだよお、葉摘いかないでよ。あたしは葉摘がいないとなんにも
できないのに・・・・・・」と、
唯里は泣きそうになりながら言った。
「だからあたしは唯里のことが一番心配なの。あたしがいなくてもちゃんと
やってけるのかなって。」
そう、小さい頃から二人は仲が良かった。唯里はいつも泣き虫で
いじめられていたのを助けたのも
葉摘だった。どんな時にも葉摘は唯里を守り続けてきた。
それは現在も変わらず唯里は葉摘に頼り切っている。
葉摘はこのままではいけないと思い、留学がきっかけになれば、
と願っている。

「唯里ならあたしがいなくてもやってけるよ。だってこれから大人に
なったらたくさんのことを一人で決めたりやらなきゃならないんだよ。
今迄はあたしがやってきたけど、これからは唯里がしっかりしな
きゃね。」
心の中ではそう思いつつ、言葉として言い出せない。そんな一言で
かたずけられるほど二人
の関係は浅くない。どれほど唯里の中の葉摘の存在が大きいか、
葉摘自身がそれを分かっているから心配でたまらない。
これから先のことが不安になったまま二人は別れた。その日の雨は夜中まで降り続いた・・・・・

その日があまりにはやく近づいている。しかし二人はまともに話す時間
が持てなかった。
葉摘は留学の準備に忙しく、唯里は葉摘を避けるようにしていた。
ある日、学校での休み時間、突然唯里は葉摘から手紙を渡された。

「直接は言えそうに無いので手紙にしました。あたし達はずっと仲良しで
いつも一緒にいたから
こんなに長く離れるのは初めてだよね。
だからあたしも唯里と同じようにすごく寂しい。
でもそのために夢を諦めることはできないの。たとえ唯里のため
でもね・・・
唯里は自分で気付かないかもしれないけど、すごく芯が強い人なんだよ。
だからあたしは唯里は平気だと思うよ。
それに、今迄唯里を護ってきたのはあたしだけじゃない。
茉未子も梨江もそうだったでしょ。それに唯里の家族も。千果ちゃんもね。
これからだってそういう人たちは唯里の力になってくれる。
そう思うと、きっとやってけると思う。
それにあたし達はなにがあっても親友なことはかわらないし、
遠くからだって話も出来る。
あたしはいつだって、唯里の友達。友達だから唯里はあたしの夢を
一番 わかってくれてるはず。
あたしはずっとこれを言いたかった。友達だから・・・・ってね。
この手紙を最後まで読んでくれて有り難う。いろいろお説教しちゃったけど許してください。
これからもずっとよろしく。 ―― FROM葉摘」

・・・・・・・・・・・・・・ありがと。
唯里は涙が零れるのを感じた。今迄、近くにいすぎて手紙なんか
もらったことがなかった・・・。
「いつだって葉摘の方が大人なんだから。負けてるな・・・」
心の奥で呟いた。それでも心が晴々としたことがうれしかった。
そして初めて気付いた・・・・
「一人になるのはあたしじゃない・・・葉摘なんだ・・・」
誰一人知っている人がいない、言葉も通じない国へ一人で
投げ出される葉摘・・・・。
葉摘のどれほど大きい不安を思うと唯里は心が痛くなった。
今迄、葉摘に余計な心配をかけてしまったのを悔やんで悔やんで
悔やみ続けていた。

あっという間にその日はやってきてしまった。唯里は空港まで葉摘を
見送りに来ていた。
「また・・・手紙書くから・・・・ね」
そう葉摘が呟くと、
「あたしも書くから・・・ぜったいぜったい書くから・・・!」
涙をこらえてやっとのことで言った一言。それ以外は涙となって零れ落ちた。
泣くまいと決意していた唯里だが、涙がひとりでに落ちてくる。
それはなんのための涙なのか・・・自分の為なのか、それとも・・・・・
唯里にはわからなかった。そんなことはどうでも良かった。
「もう行かなきゃっ、じゃあねっ!」
そう言って葉摘は搭乗口の方へ向かっていった。
(待って・・・・まだ葉摘に言いたいことがいっぱいあるのに・・・言わなきゃいけないことがあるのに・・・・!)
しかし口からでるかわりにとめどなく涙が零れ落ちてゆく・・・。
搭乗口に近づいてゆく葉摘もそれは同じであった。あのまま唯里のところ
にいたら自分も涙を止めることが出来なかったであろう。しかしそれは
永年唯里のことを守り続けてきたというプライドが許さなかった。
それでも口に出さなくてもお互いの思いはわかっていた。

晴れ渡った空に葉摘を乗せた飛行機が飛んでいく。唯里はひとりそれを
見つめていた。
やがて飛行機は空の彼方へ飛んで行く・・・二人の思いを乗せて・・・・・。
飛行機が見えなくなると唯里はそれを背に帰って行った。

葉摘がいなくなってからもまた明日から変わらない日常が始まる。
そう、世間はなにも無かったかのように、動いて行く。
ただ一人、唯里は歯車の足りないようなそんな気がしていた。
それほどに今迄心の中の
大きな部分を葉摘が占めていたことが分かる。
しかし唯里は自分が変わり始めたことに気付いていた。
またひとつ大人になったのだ。

少女達はこうして大人になっていく。変わらない日常の中でそれは
起こっていく。
大人達には何気ないことが少女を成長させるのである。
今はあまりにいろいろなことがありすぎて、それがあまりに多すぎて、
逆に大人になりきれない大人が増えている。
それでも人は成長し続けるのである。道を間違い続けても・・・・。
人はそれを日常と呼ぶ。他愛無い会話、ふと気付く動作、
それら全てが誰にとっても日常である。
こんな毎日がそれでも楽しみなのはなぜだろうか・・・・・・?
そんなことをふと考えるのも日常のことである。だれも気付かない
けれども・・・・・。


★ あとがき、というか感想 ★

いやあ、なんて平凡な話・・・(汗)
もちろんそれを一応は狙ってしまったんですけど・・・今回は自分のHPに載せる
初めての小説だったので身近なものをテーマにしようかな、と。それでお友達が
テーマになったんですよ。それにこのHPの製作にあたってはお友達にすごくいろ
いろやってもらったので・・・・(恥)感謝の意味も込めてこんな風になったのです。
にしても自分にこんなクサイ話が書けるとは・・・・驚きました。ほんとに。なので
いろいろつまらない部分があると思いますが、お許しください・・・(涙)。

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